渡辺コラム

【漢方修行時代】『丁稚奉公』と『G』が僕に教えてくれたこと

大学での学びを経て、現場で漢方を学ぶべく飛び込んだ岡山での「丁稚奉公」時代。想像を超える生活環境と過酷な試練、そして五感で叩き込んだ生薬修行の日々を振り返ります。

1. 地元・岡山の漢方薬局で見つけた修行の道

大学4年生の時、「どうしても現場で生きた漢方薬の勉強がしたい」という想いが強くなり、生薬研究室のO教授に相談しました。教授はすぐさま、漢方に力を入れている企業や薬局へ一斉に問い合わせメールを送ってくださったのです。

大手企業からもご回答をいただきましたが、僕の希望はどこまでも「現場で直接お客様と向き合う仕事」。そこで、地元・岡山県にある昔ながらの漢方薬局へ見学に伺うことにしました。

その薬局は(現在は改装されてとてもきれいになっていますが)、当時はまさに「昔ながらの格調高い漢方薬局」。一歩足を踏み入れると、様々な生薬が織りなす独特で深い香りが店内に漂っていました。

「ここで本物の漢方を学びたい!」

強く心動かされたものの、すでに従業員の枠は満員。店主からは「『丁稚奉公』という形であれば採用してもいい」との条件が提示されました。

高い授業料を払って大学院へ進学する人が多い中、「僅かでもお給料をいただきながら現場で実戦的な勉強ができるなら、むしろありがたい話だ」と捉え、即決で就職を決めました。

2. 忍耐力を鍛え上げられた「G」との死闘

給料は控えめでしたが、ありがたいことに住む場所を用意していただけました。……しかし、その古いマンションでの暮らしが、僕の忍耐力を極限まで試すことになります。

入居初日、大学時代から使っていた洗濯機が蛇口の形状と合わず使用不可に(今思えばホースを買い替えれば済む話だったのですが……)。結局、日常的にコインランドリーへ通う羽目になりました。

ですが、そんな不便さかすむほど恐ろしかったのが、驚異的な「G(ゴキブリ)」の発生率です。

  • 日常の遭遇: 1日1匹以上との遭遇は日常茶飯事。

  • お風呂場にて: 入浴中に2匹のGが現れた時は、体を洗っても全く綺麗になった気がしませんでした。

  • 玄関前の恐怖: 特に大量発生した日は、外出から戻るとマンションの入り口から数匹が蠢き、自分の部屋にたどり着くまでに10匹近くのGを目撃……。

  • 教科書を開けば: 部屋で漢方の専門書を手にとった瞬間、その陰から飛び出したGが僕の上腕まで駆け上ってきたこともありました。

虫や自然に慣れた今の僕なら笑い飛ばせるかもしれませんが、当時22歳だった僕にとっては相当なストレスでした。

【ささやかな癒やしと「かきお」の衝撃】

見かねた事務スタッフの方にペットショップを紹介され、密かにフェレットを飼い始めました。名付けられた名前は「かきお」。「クックックッ」と声をあげながら横っ飛びする姿は非常にかわいらしかったのですが……なんと「生きたGには見向きもせず、殺虫剤で倒したGだけをバクバク食べる」という衝撃的な癖がありました(笑)。

その後、結婚を機に引っ越すことになりますが、あのマンションでの日々が僕の精神力と忍耐力を一気に向上させてくれたことは間違いありません。

3. 五感で覚える生薬修行——味覚と効能の深い関係

肝心の漢方の勉強も、最初はチンプンカンプンからのスタートでした。しかし、師匠の厳しい指導の元で学びを重ねるうちに、少しずつ要領が掴めるようになっていきました。

師匠から課されたルールの一つが、「生薬を調剤し調合するたびに、必ずその生薬を自ら口にして味わうこと」でした。

漢方において、味(五味)は効能と直結しています。

味(五味) 主な作用・効能
甘(かん) 緊張を緩める・元気を補う
辛(しん) 発散させる・巡りを良くする
苦(く) 熱を冷ます・湿を乾燥させる
酸(さん) 引き締める・収斂(しゅうれん)させる
鹹(かん / 塩辛い) かたまりを軟らかくする・緩める

強烈な苦味を持つ「黄連(オウレン)」や「黄柏(オウバク)」を食べては悶絶し、「半夏(ハンゲ)」や「天南星(テンナンショウ)」を口にした時はエグみで喉が焼けつくような感覚に襲われ、文字通り死にかけました。

一方で、「枸杞子(クコシ)」や「大棗(タイソウ)」の甘みは美味しく、「茴香(ウイキョウ)」や「白芷(ビャクシ)」のスッとする香りはとても好ましく感じられました。

現在、当薬局では生薬そのものの取り扱いはありませんが、当時舌と鼻で徹底的に叩き込んだ生薬の味や香りは、今も僕の身体に深く刻まれています。

4. 社会人としての第一歩、そして滋賀へ

社会人としての常識や基礎が全くなかった1年目は、周囲に多大なご迷惑をおかけしました。しかし、その都度師匠をはじめとする温かい方々に本気で叱っていただき、指導してもらったおかげで、3年目あたりからようやく社会人として一人前になれたと感じています。

そして修行4年目、大きな目標であった「国際中医専門員 A級」の試験に無事合格することができました。

漢方の知識の土台を築いた僕が次に目指したのは、「最高の接客とカウンセリング技術を学ぶこと」でした。当時、接客の第一人者として有名だったN店長のもとで学ぶため、僕は滋賀へと移住することを決意します。

それが、僕が26歳の時のことでした。

  • 健康相談
  • お問い合わせ

無料健康相談

メニューを閉じる