渡辺コラム

常識を疑いましょう

僕が社会人になる前、つまり薬学部に通っていたとき、抗生物質は菌を殺したり、増殖を抑制するものであり、ウイルスやカビには効かないと習いました。

ところが、卒業して社会に出ると、風邪に抗生物質がバンバン出されていたのです。

は????

先輩たちはあまり疑問に思っているような感じはなかったのですが、聞くと抗生物質がウイルスに効かないことはちゃんと知っています。世の中の流れに沿って、私たちは処方されたものを出せばそれでその日が終わるし、給料ももらえる。そんな感じでした。

中には、あの抗生物質は2次感染を防ぐものだという話をする薬剤師もいました。確かに添付文書を見るとそのようなことも書いてある。しかし、抗生物質乱用による耐性菌のことも大学で習っていましたので、やはり腑に落ちませんでした。

さらにびっくりしたのが、風邪を引いて抗生物質を出さない医者は藪医者だと言う患者さんがわりと多かったことです。
決して間違っていない、むしろ正しい医者が文句を言われていたのです。

お医者さんも生活がありますから、悪い噂を流されたら患者が減るのではないかと不安になります。最終的には患者も喜ぶことだしと自分に言い聞かせ、抗生物質を処方するようになります。

そんな中でも抗生物質を出さない医者もいたことに僕は感動し、勇気づけられたこともあります。

抗生物質の乱用による弊害は、腸内の有用菌を殺してしまうことです。幼少期に使い過ぎると、本来腸壁にびっしりついているべき腸内細菌がまだら状になることが分かっています。そしてそんなまだら状になってしまった人ほど、全身性エリテマトーデスやクローン病などの自己免疫疾患になるリスクが高くなることも分かっています。

抗生物質の乱用で、耐性菌が増え現在の抗生物質が効かなくなると、救えるものも救えなくなってしまいます。

近年やっと厚労省も抗生物質の乱用の対策に乗り出しました。やっとですが、動いてくれてとても良かったと思います。
これまでの世間の常識が間違っているから、軌道修正に入ったという一つの事例です。

正しいことを知りながらも抗生物質を出すようになってしまった医者のように、本当のことを知っている人でも、生活を盾にとられると間違ったことをせざるを得ないことがあります。

僕はそのことに同情します。「自分は間違っている。でも家族を守らなければならない」、そんな苦しい心中にあったことでしょう。

このようなことは医療の世界だけのことではないだろうと思います。いつの間にか世間の中で妙な常識が芽生え始め、プロとしておかしいと思っていても、自分の生活のために正しいと言わざるを得ないことが、いろんな業界であると思います。

常識を疑いましょう。
そして何よりプロがプロとしての誇りを持ちましょう。その道の素人だからプロの元に行くのです。間違った情報を持っていて当たり前の素人が目の前にいるのです。

その素人のために、本当のことを言う勇気を持ちましょう。それが本来のプロの仕事のはずです。

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